この声劇は「言葉」という人間の最大の武器であり、最大の弱点でもある存在を軸に、言葉がもたらす汚染や破壊、そしてそれでも求めてしまう本能を描いています。結末はバッドエンドでありながらも、最後の言葉にこそ“人間性”の真実が滲んでいます。
- 商用利用可能(フリー台本です。さまざまな場面でご使用ください。)
登場人物
- ユウ(男/理性的・冷静・思慮深い)
- ナナ(女/感情的・まっすぐ・繊細)
本文
(静かな風音、低く重たいピアノ。ゆっくりと幕が上がるように)
ユウ:
なあ、ナナ。
どうして人は、言葉にすがるんだと思う?
ナナ:
……え? いきなり何?
ユウ:
たとえば、「愛してる」とか、「大丈夫」とか。
そういう…救いみたいな言葉に。
ナナ:
それは……必要だからでしょ。
生きていくには、そういうの、ないと苦しくなるし。
ユウ:
でもさ、そうやって頼った言葉が、ある日突然、毒になることだってあるだろ?
ナナ:
……。
ユウ:
綺麗な言葉ほど、腐るのも早い。
口に出した瞬間、短命な幻想になる。
ナナ:
ユウ……何があったの?
ユウ:
あの時、君は言った。「信じてるよ」って。
でも、あれが俺の中の“終わり”の始まりだったんだ。
ナナ:
それは、私が――
ユウ:
違う、ナナ。君のせいじゃない。
ただ、俺がその言葉を…信じたのが間違いだった。
(間)
ナナ:
じゃあ、何を信じればよかったの?
沈黙? 無関心? それとも、毒みたいな嘘?
ユウ:
――信じなくてよかった。
最初から、言葉なんか、なければよかったんだ。
ナナ:
それでも、私は言葉を選ぶよ。
例え刺さっても、例え黒く染まっても、
沈黙よりはマシだと思いたい。
ユウ:
甘いな。
言葉は染み込む。皮膚じゃ止まらない。
脳を腐らせ、心を蝕む。
ナナ:
じゃあ、私の「ごめん」は?
私の「好きだったよ」は?
それも、汚れて見える?
ユウ:
……いや、もう見えないんだ。
白も黒も、愛も憎しみも、
全部、同じ色に見える。
ナナ:
ユウ……まだ、やり直せるよ。
何度でも、言葉を選び直せばいい。
ユウ:
ナナ、気づいてるだろ?
俺たちはもう、言葉じゃつながれない。
(静寂、風が止む)
ナナ:
ユウ、私ね――
あなたの声が、好きだった。
言葉じゃない、声そのもの。
ユウ:
(小さく笑う)
声も、もう枯れそうだ。
喉の奥が痛む。
きっと、何かが腐ってる。
ナナ:
私のせい……だよね。
ユウ:
ちがう。
それは俺の中の、人間性の問題だ。
もとから壊れてたんだよ。
君は……ただ、それを照らしただけだ。
ナナ:
優しいこと、言わないで。
もう、そんなの聞きたくないの。
ユウ:
……じゃあ、最後にひとつだけ。
言葉を、棄てよう。
名前も、記憶も、全部、無に還して。
ナナ:
(震える声で)
それが……あなたの、答え?
ユウ:
ああ。俺の、終わり方。
何度進んでも、過去が足を引っ張る。
だったら、もう歩かない。
(ゆっくりとフェードアウトするようにBGM)
ナナ:
……わかった。
じゃあ私も、最後に言わせて。
(間)
ナナ:
あなたの痛みが、私の言葉に刺さってたなら――
ごめんね。
そして、ありがとう。
(長い無音の後、ナナの独白)
ナナ:
言葉は、誰かを救うためにあると思ってた。
でも、時には、言葉は刃になる。
それでも、私は喋る。
喉が潰れるまで、誰かとつながろうとする。
それが、人間の矛盾であり、
……希望であり、
……呪いだ。
(フェードアウト)
声劇台本を書くにあたって参考にした書籍のご紹介
僕が作成している声劇台本には、いくつかの作品や作家から影響を受けた部分があります。たとえば、村上春樹の静かで深く沈んでいくような内面描写や、夢と現実のあわいを漂う感覚。太宰治の人間の弱さや孤独に向き合う視点、そして新海誠作品のような、言葉にならない想いを風景や間で表現する技法。これらの作家や作品から受けたインスピレーションを、自分なりに消化しながら台本へと落とし込んでいます。読む方や演じる方にとっても、どこかでそれらの面影や空気感を感じていただけたら嬉しいです。物語の背後には、こうした文学や映像作品の影がひっそりと息づいています。
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