- 二人声劇台本(台本参加人数2人)
- 5分読了
- 商用利用可能(さまざまな場面でご使用ください。)
◎…それでは、君は悪とはどういったものと主張するわけだね?
○私は、悪は成りあがるものだと思います。
◎ほう。つまり、どういうことだね。
○悪は作り上げるものではないと主張したいのです。成り立ってしまうもの、それが悪なのではないでしょうか。教授。
映画や漫画に登場する「悪者」を見ていても、やれ世界征服だ、大事なものを守るだ、作られたフィクションなので、悪を感じない。私は作られた悪はフィクションであると考えます。
◎難しいことを言うじゃないかね。それでは悪は真に悪いものであると思うかね。
○どうでしょうか。本物の悪を見たことがないので、よくわかりません。
しかし、フィクションの作られた悪は目にしています。
想像でしか悪を語ることは出来ませんが、正義の裏側に悪は潜んでいるのではないかと推察されます。
◎正義の裏側というと?
○例えば、豚肉を美味しくレストランで食べているとき、調理場では豚が殺されて加工されます。
私たち人間の命を存続させる正義の行為が、他者、つまり豚には殺戮という悪であると思います。
◎つまり、君は悪とは正義の反対側に存在すると考えているのかね。
○そうです。その通りです。
◎ほう、とても素晴らしい生徒をもって私は感激するよ。
しかし、間違いだ。悪の裏側に正義なんか存在しないし、正義の裏側にも悪は存在しない。
○それでは先生、正義とは、悪とは一体何なのでしょうか。
◎正義の定義は難しい。人によって変わっていくからだ。
私は動物を食べない菜食主義だから、動物を食べないことによって地球が守られていると感じている。
しかし、君は豚を食べるようだね。君の休日の喜び、つまり正義は動物を食することだ。
だからと言って、私と君が正義と悪の対面に立っているとは思えない。そうだね?
○たしかに、その通りであります。
◎動物を食べる正義と動物を食べない正義が今ぶつかったのだ。
この状態を争いという。
○先生と争う気にはなれませんが、つまりその通りですね。
◎ここで、勘違いをしてほしくないのが、この争いに勝者として君臨した者を正義、敗退した者を悪とは言わないのだよ。
○私は、勘違いをしていたようです。悪とは正義とは争いによって決定することだと思いました。
◎左様。
ここから本題に入る。
ノートとペンは持っているかな?
○はい。いつも持ち歩いております。
◎充分である。今からいうことをしっかりと記録しておくことだ。
○悪と正義について講義されるのですね。
◎難しい。その議題は難しい。
今から伝えるのは「何が悪で何が正義か」を君に考えさせる講義である。
○はい…
◎悪の定義についてだが、私はいくつもの発展途上国で、世論で、SNSで悪を見てきた。その正体は”残忍さ”である。
○”残忍さ”は確かに悪ではあります。
過度に嬲ったり、殺したりすることには心が痛みます。
◎左様。
この”残忍さ”が悪と今から伝えるが、本当に君に伝えたいトピックはそこではない。
人間はいつ”残忍さ”に目覚めるのかということだ。
○悪に染まったときではないでしょうか。
◎違う。けっして違う。人間は悪に染まったとき”残忍さ”は皆無なのだよ。
○では先生、人間が”残忍さ”を持ち合わせるタイミングはいつなのでしょうか。
◎それはね。君。
「正義の側に立った」と思ったときに人間は”残忍さ”を持ち合わせるのだ。
つまり、「自分は正しい」と免罪符を手に入れたのだから、正義という名のもとに仮定の悪を打ちのめすのだよ。
その”残忍さ”は快楽に近い。
君はその快楽に打ち勝てるかな?