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二人声劇台本:奇矯-キキョウ-

  • 男性と少女の掛け合い声劇台本(台本参加人数2人)
  • 5分読了
  • 商用利用可能(さまざまな場面でご使用ください。)

○僕はここにいつから居るのだろう。
風は微かにも感じない。冷たさと手に触れる砂の感触がある。しかし様子を見て取れない。
心臓の音は緩やかになり、呼吸も息苦しくない。
発見できたことは、天にI字の光が差し込んでいることだ。
「そうだ、僕は井戸に落ちたんだ」
わざとらしく言葉をよわよわしく垂らし、一瞬よぎる井戸の中の自分を誰も見つけられないのではないかという最悪の展開を押し殺した。
「どのくらい僕はココに居るんだろう。」
考えが言葉に変換されるうちに、井戸の中の自分を客観的に見ることが出来て恐怖が込み上げてきた。
「おーい!おーい!」
井戸の前に居るかもしれない人に叫ぶ。しかし返事は無い。
「おーい!」
叫んでいるうちに声がしゃがれていることに気づく。
どうやら何時間も井戸の中に滞在していたようだ。
次第に途方に暮れるチカラもないことに気づく。
僕は、ここで終わりなのだろうか。
僕は、ここで最期を迎えるのだろうか。
声も体力もわずかと察知して、恐怖と不安に押しつぶされる。
しかし天にあるI字の光は僕を優しく包み込む。
どうやら正午近いようだ。
スポットライトの様に照らされる僕は、一体どんな姿なのだろうか。
手を伸ばす。
しかし届かない。
井戸の外へ手を伸ばしたいのに、今は本能的に光に手を伸ばしている。
僕を照らす光はわざとらしく周囲のホコリをきらびやかに映している。
同時に僕をきらびやかに映し出す。
「あぁ、僕はホコリだったのだ」
「輝くホコリ、金を得て、女を得て、地位を得て、人々の感情を揺さぶる、ただのホコリだったんだ」
精神状態は異常のサインを導き出していた。
自己完結に没頭している中で、何やら声が聞こえてきた。
それは天からの申しつけであった。

×「おーい!」
「気分はどう?」

○いつの間にかI字に少しだけ開かれていた井戸の蓋が開かれていた。
自身をホコリと自己完結して悦に浸っていた自分が恥ずかしく情けなくなるくらいに間延びした少女の声だった。

×「おーい!」
「○○さん、気分はどう?」

○「気分はどう?」
僕はしゃがれた声と荒げた声で言った。
井戸に落ちて、初めての感情だった。
気分が良いわけがない。
落ち着かずに、途方に暮れ、自己評価をホコリにまで落とし込んだ自分への問いに「気分はどう?」とは、まるで妻を間男に寝取られたような奇怪は不安と怒りに包まれた。
しかし、今はあの少女を使うしか井戸から出る術はないみたいだ。怒りを押し殺して、聴いてみる。
「早く助けを呼んでくれないか」

×「助けは来ないわ」
「あなたのこと誰も好きじゃないって」
「これは罰なんだって」
「あなたを改心させることは出来ないって、パパが言ってた」

○「助けが来ない?それは、どういうこと?」

×「あなた、やりすぎよ王様」
「1000人を処刑するのも、10,000人を戦争で殺すのもよかったかもしれない」
「けど、自分を過小評価したのがダメだったわ」

○「どういうことだい?僕が何をしたっていうんだ」
10,000人を戦争で殺す?確かに殺した。
しかし、あれは民衆を守ることに徹した結果だ。悪いことではない。
過小評価とは?
一体あの少女は何を言っているのか全く分からない。

×「人はね。王様、人は殺されても、その人自身には恨みは募らないの。だって死んじゃってるから!」
「けどね、王様、殺された人の家族や友達は黙っちゃいないの。でね、王様、私考えたんだけど、殺した兵士さん達ってその恨みを背負わないといけないの」

○「一体何が言いたいんだ!」
僕は中に浮くホコリを手で払いのけた。

×「私が言いたいのはね、王様、結果がどうであれ堂々としてなくちゃいけなかったってこと」
「恨みを背負うことなんて誰でもしてる。恨むこともある。けど、その恨みを一番背負わなきゃいけない人ってわかる?」

○「知らないね」

×「王様だったんだよ!」

○「僕は子供のなぞなぞに付き合っている暇なんてないんだ!早く井戸から引き揚げてくれ!」

×「王様、私も王様と一緒。恨まれたり恨んだりするよ。けどね、その恨みを無かったには出来ないんだ。王様は良いことをしたと思う。街の人達を結果的に守ったし。」
「けどね。いいことをしていればいる程、誰かの人生では悪者になるんだよ。恨みを買うんだよ!」
「それは当然の事なんだけどね。」
「なのに王様、自分のやったことに全然自信を持たないんだもん」

○「どういうことだ!」
ハッと声を荒げたのちに、気づく。ピッタリと閉められた井戸の蓋に。
縛られている自分の手足に。
どうやら、僕は幻覚を見ていたらしい。深い井戸の中の様な幻覚に。
声は出ない。口は縫われている。
身体に触る水の感触。額から出る血の流れ出る様子が暗闇でもわかる。
朦朧とする感触の中で僕は少女を思い出す。

seichan

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